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私生活上の非行を理由に懲戒処分できるか(労働)

2024-06-05

1. 多くの企業では、業務上の行為か私生活上の行為かを問わず、企業の名誉信用を毀損する行為や犯罪行為一般を懲戒事由として規定している企業は少なくありません(「不名誉な行為をして会社の体面を汚したとき」や「犯罪行為を行ったとき」等)。

しかし、懲戒権の根拠となる労働契約は、企業がその事業活動を円滑に遂行するのに必要な限りでの規律と秩序を根拠づけるにすぎず、労働者の私生活上行為全般に対して使用者の懲戒権が及ぶわけではありません。

従って、従業員の私生活上の言動は、事業活動に直接関連を有するもの及び企業の名誉や信用を棄損するものに限定して、懲戒の対象となるに過ぎないと考えられており、裁判例も就業規則の包括的条項を限定的に解釈し、私生活の非行に関する懲戒権の発動を厳しくチェックしています。

懲戒解雇の場合は退職金が支給されないことも多いのですが、退職金不支給の処分についてはさらに厳しいチェックがなされているといえます。

2. 裁判例

①組合活動に関連した公務執行妨害行為を理由として行われた懲戒免職処分について、従業員の職場外の職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序に直接関連するもの及び企業の社会的評価を棄損するものは企業秩序による規制の対象となるとして懲戒免職処分を有効としたもの(国鉄中国支社事件最1小判昭和49年2月28日民集28巻1号66頁)。

② 深夜酩酊して他人の家に闖入し、住居侵入罪として罰金刑に処せられた従業員に対する懲戒解雇について、会社の組織、業務等に関係のない私生活の範囲内で行われたものであること、罰金が2500円に留まったこと、職務上の地位も指導的なものではなかったこと等から、会社の対面を著しく汚したとまで評価できないとして懲戒解雇処分を無効としたもの(住居侵入がいわゆる破廉恥罪であることを重視し、懲戒解雇処分を有効とする反対意見があります)(横浜ゴム事件最3小判昭和45年7月28日民集24巻7号1220頁)。

③ 社宅における会社誹謗のビラ配布行為に対するけん責処分について、①の国鉄中国支社事件の判旨を踏襲したうえ、同行為は労働者の会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱すおそれがあったとしてけん責処分を有効とした原審判断を是認したもの(関西電力事件最1小判昭和58年9月8日労判415号29頁)。

企業に対する誠実義務違反も問題になりうる事案でもあります。

④複数回の痴漢行為(電車内での痴漢行為を含む)を行った鉄道会社の従業員に対する懲戒解雇処分及び退職金の不支給について、懲戒解雇処分については、痴漢行為が条例違反に留まるとしても決して軽微な犯罪とはいえないこと、過去に一度痴漢行為で罰金刑に処せられたにもかかわらずまた痴漢行為に及んだこと、職務に伴う倫理規範として決して行ってはいけない地位にあること等を理由に有効としたが、退職金全額の不支給については、退職金は従業員の退職後の生活保障という意味合いを持っていること、本件では賃金の後払い的性格を有していること等から、退職金全額の不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の効を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要であるとして、これを認めず、3割の支払いを命じたもの(小田急電鉄事件・東京高裁平成15年12月11日判例時報1853号145頁)。

⑤痴漢行為により罰金20万円の略式命令を受けた鉄道会社の社員に対する諭旨解雇について、痴漢行為は懲戒事由に当たるが、刑事処分が略式命令による罰金にとどまり、懲戒処分にあたり刑事事件の起訴不起訴以外の要素を十分に検討した形跡がなく、前科前歴、懲戒処分歴が一切ない等の理由から諭旨解雇は相当性を欠き懲戒権を濫用したものとして無効としたもの(東京メトロ事件・東京地裁平成26年8月12日決定(地位保全等仮処分命令申立事件)労働判例1104号64頁)。

⑥酒気帯び運転により免停30日及び罰金20万円に書せられた運送業者のドライバーに対する懲戒解雇及び退職金の不支給について、懲戒解雇は有効としたが、退職金については賃金の後払いの性格もあるので、退職金不支給規定は長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由が存在する場合に限り退職金全額不支給とできるとの限りで有効であるとして全額の不支給は認めず、約3分の1の支払いを命じたもの(ヤマト運輸事件・東京地裁平成19年8月27日判決労働経済判例速報1985号3頁)。

④の判決と同様の理由付けをしているといえます。

なお、郵便事業会社事件・東京高裁平成25年7月18日判例時報2196号129頁も酒気帯び運転等により逮捕され罰金刑に書せられた従業員に対する懲戒解雇及び退職金不支給の事案ですが、懲戒解雇は有効としつつ、退職金については同様の理由付けにより約3割の支給を命じています。

3. 私生活上の非行については業務上の非行と比較して懲戒処分の対象になりにくいため、慎重な判断が求められ、また懲戒解雇の際の退職金の不支給については、退職金の給料後払いの性格や、従業員の退職後の生活の保障となることから、全額不支給の処分が認められるためには、従業員の長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由が存在することを要するとする多くの裁判例がありますので、ハードルはかなり高くなるといえます。

※本稿の意見に渡る部分は記事筆者の個人的な意見であり、梅新法律事務所の公式見解ではございません。