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退職後に不正等懲戒事由が発覚した場合、懲戒解雇(懲戒処分)はできるか/退職金の返還請求ができるか(労働)

2024-06-12

1. 懲戒処分

退職届が提出され辞職の意思表示がなされただけであれば、退職の効果が生じるまでの2週間(民法627条1項)の間に懲戒解雇処分が決定すれば、懲戒解雇できます。

しかし、2週間経過した後や、不正を知らずに使用者が退職を承認し合意解約が成立してしまったような場合は、その時点で雇用契約が終了してしまいます。

このような場合は遡って懲戒処分はできないと考えます。

但し、理論的には、合意解約による退職が、詐欺による取消(民法96条)や錯誤による無効(同法95条)などとされるような場合には雇用契約は有効に存在していることとなるので、懲戒解雇は可能ということになります。

2. 退職金の返還請求

退職後の不正事由発覚の場合に懲戒処分はできないとしても、退職金を満額取得させることには抵抗がある場合も多いでしょう。退職金の返還は請求できるのでしょうか。

これについては退職金の返還を請求することができる場合があります。

第一は、返還規定がある場合です。

例えば、「退職後に懲戒解雇理由あることが判明した場合には支払済の退職金の全部または一部の返還を求めることがある」などの返還規定がある場合です。

第二は、懲戒解雇の場合について就業規則などに退職金の全部又は一部の没収の規定があり、退職後に懲戒解雇理由が発覚した場合で本来懲戒解雇規定の適用があって退職金の支払いを受ける地位になかったにも拘らず、退職者が真の退職理由を秘して退職金の支給を受けた場合で、会社に退職金相当額の損害を与えこれを不当に取得したものとして民法703条の不当利得返還請求権により返還を求める場合です(福井新聞社事件・福井地判昭和62年6月19日労判503号83頁)。

裁判例では、労働者が(懲戒解雇以外の理由により)既に退職した場合においても、退職金の功労報賞的性格に照らすと、当該労働者において、それまでの勤続の功を抹消する行為があったと認められるときは、使用者は、当該労働者による退職金請求の全部又は一部が権利濫用に当たるとして、当該労働者に対する退職金を不支給又は減額することができると判断しています(ピアス事件・大阪地判平成21年3月30日退職届受理後に懲戒解雇・退職金不支給事由が発見された場合に退職金の請求を認めなかった例として大器事件・大阪地判平成11年1月29日労判760号61頁)。

また、会社が退職金返還条項に基づき既に支払った退職金の返還を求めた事例においては、懲戒解雇事由が明らかになった場合の退職金の返還請求については、退職金が功労報賞的な性格と賃金の後払いとしての性格を併せ有していることからすると、単に懲戒解雇事由等が存在するということだけでは直ちに退職金の返還が認められるわけではないが、労働者のそれまでの勤続の功を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に退職金の返還請求を認められるとしています(ソフトウェア興業事件・東京地判平成23年5月12日労判1032号5頁)。

第三は、退職が雇用契約の合意解約とされる場合に、退職金の取得が、退職者の不作為による詐欺として、民法709条の不法行為や誠実義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求により同額の賠償を求める場合などです。

なお、退職した者を懲戒処分したいという使用者側の目的には、退職金の返還等以外に、報復的な意味合いで、当該労働者が懲戒に該当する行為を行ったことを社内外に公表したいということも挙げられます。

この点については、社内的な記録に懲戒解雇相当などとして残すことは格別、社外にも併せて公表することは、公表の必要性や、内容の真偽、表現方法、公表範囲、当該労働者の名誉、信用に対する配慮などが必要で、場合によっては、当該労働者から名誉毀損として慰謝料を請求されたり謝罪広告を求められる可能性もあるので注意が必要です。

 懲戒解雇の事実を同業者に通知しあるいは新聞に広告したことを名誉毀損と認定されたケースや(日星興業事件・大阪高判昭和50年3月27日判時782号48頁)、表現について、重大な不正行為をしたことによって懲戒解雇されたとの印象を与える文書を作成し、強制的な配布・掲示の方法をとったことについて名誉毀損を認定したケース(泉屋事件・東京地判昭和52年12月19日労判304号71頁 不当解雇を主張する組合に対する報復的の意図があったことも認定されています。)等があります。