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セクハラ認定事例3選(労働)

2024-07-23

1 セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)とは、雇用機会均等法11条1項では「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、または当該性的な言動により当該労働者の就労環境が害されること」と定義されています。

セクハラは(1)対価型セクハラ(2)環境型セクハラに分類されます。

(1)対価型セクハラは、職場において行われる性的言動に対する労働者の対応により当該労働者が解雇、降格、減給、昇進の機会が与えられないといった不利益を受けることをいいます。

※ 厚労省のセクハラ指針の示す典型例としては、

・ 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが拒否されたため当該労働者を解雇すること。

・ 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。

等があります。

(2)環境型セクハラは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることをいいます。

※ セクハラ指針の示す典型例としては、

・ 事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。

・ 労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。

等があります。

2 環境型セクハラについて、セクハラに該当するかどうか、微妙なケースが多々あります。

セクハラ該当性が問題となった裁判例を3つ挙げたいと思います。

(1)「頭をポンポンと叩く」行為はセクハラか(幻冬舎メディアコンサルティング事件(東京地判令和元年11月27日労判ジャーナル97号28頁))

セクハラ指針の典型例では、労働者の腰、胸などに「度々」触ったことが挙がっており、反復性や継続性が要件になっているようにも思えますが、本件は「頭を一度ポンポンと叩いた」程度の身体的接触がセクハラに該当するかが争われた事件です。

判決では「C副社長が、平成27年秋頃から平成28年5月頃にかけて、原告の頭を撫でるなどの行為をしたとの原告の主張については、ユニオンからの申入れに対する被告の調査結果・・・に照らせば、少なくとも一度は存在したことが認められ、職場における不適切な行為として、セクシュアルハラスメントに当たり得る」とされており、厳格にハラスメントを認定されています。

行政解釈ではある程度の継続性が要件になっているのですが、上記判決は回でも(しかも、胸や腰などではなく頭であっても)ハラスメントに該当しうるとの判断をしています。

なお、令和6年3月のニュースですが、ある町の町長による女性職員の「頭をポンポンと触る行為」が第三者委員会により不適切な行為と認定されたというものがあります。

この件では「子供はまだつくらんのか」といった発言など多数のハラスメント言動が認定されています。

上記判決や市長に関するニュースを見る限り部下・同僚への身体的接触は極力避けるべきだといえます。

(2)宴会での脱ぎ芸はセクハラか(東京高判令和5年9月7日労判ジャーナル142号52頁)

酒の席で、酔って服を脱ぎ、肌を見せたりすることがあります。

下腹部を露出するような行為は論外ですが、ズボンをずり下ろしてステテコが露出する程度のものが女性(警察官)警察官従業員に対するセクハラかどうかが争われた事件の判決です。

原審(東京地判令和3年10月19日)はセクハラを認定しませんでした。

脱いだ警察官の意図が面白いことをしようとか、場を盛り上げようというものであって、原告の女性警察官に向けられたものではないとか、ズボンがずり落ちた回数は1回で、5秒程度で他の警察官がそれ以上ずり落ちないようにしたため、ズボンがずり落ちたのは足の付け根あたりまでに留まり、シャツないしステテコが見えたのはごく短時間だったという事実を認定し、原告の人格権を侵害するような社会相当性を欠く違法な行為であるとは認めませんでした。

控訴審では、原審同様脱いだ意図は場を盛り上げようとしたものだと認定しましたが、この意図を被告に有利なものとはせず、意図的にズボンをずり落ちるようにしたこと(これを卑猥な動作とも言っています)、同様の動作を複数回繰り返したこと認定し、セクハラ行為に他ならず原告の人格権を違法に侵害したとして不法行為を認定しました。

いわゆる脱ぎ芸は古くから宴会芸の一つとして行われてきたものではありますが、不快感を覚える参加者が一定割合いたことも事実です。

現在においてはセクハラに該当する、品位を欠く行為として避けるべきだといえるでしょう。

(3)その場で抵抗しないのは同意があったからでセクハラではないといえるか(テクネット事件(建設会社)(東京高判平成9年11月20日労判728号12頁))

セクハラ被害に関して、被害者が拒絶していなかったり、迎合的な言動をとってしまうことがあるが、そのような言動をとらえて、セクハラの事実自体なかったとか、同意があったとか、自由恋愛の範囲であったという反論がなされることがあります。

このような反論に対する被害者の再反論が採用された事件です。

第1審(横浜地判平成7年3月24日労判670号20頁)では、20分もの長時間、原告Xが被告Y1のなすがままにされており、外へ逃げるとか、反射的に悲鳴を上げて、助けを求めることもできたはずなのにしなかったとか、普段と変わらず…事務所内で昼食をとっているといった事情から」セクハラの事実を否定しました。

これに対し控訴審は、控訴人が提出した研究結果を採用しました。

判決では「米国における強姦被害者の対処行動に対する研究によれば、強姦の脅迫を受け、又は強姦される時点において、逃げたり、声を上げることによって強姦を防ごうとする直接的な行動(身体的抵抗)をとる者は被害者のうちの一部であり、身体的または心理的麻痺状態に陥る者、どうすれば安全に逃げられるかまたは加害者をどうやって落ち着かせようかという選択可能な対応方法について考えをめぐらす(認識的判断)にとどまる者、その状況から逃れるために加害者と会話を続けようとしたり、加害者の気持ちを変えるための説得をしよう(言語的戦略)とする者があるといわれ、逃げたり声をあげたりすることが一般的な対応であるとは限らないと言われていること」を指摘し、「特に職場における性的自由の侵害行為の場合には、職場での上下関係(上司と部下)による抑圧や、同僚との友好的関係を保つための抑圧が働き、これが、被害者が必ずしも身体的抵抗という手段を採らない要因として働くことが認められる。」として、控訴人が事務所外に逃げたり、悲鳴を上げて助けを求めなかったからと言って、直ちにセクハラに関する控訴人の供述内容が不自然であると断定できない等としてセクハラ行為を認定しました。現場で被害者が抵抗しなかったからといって単純に被害者が同意していたなどと認定できるようなものではなく、被害者と加害者の関係性など、情報を総合的に判断する必要があるといえます。

いずれの裁判例も、裁判所はセクハラに対して厳しい視点を持っていることを示すものであり、社会全体としても、セクハラには厳しく対処して被害者を保護しようという方向に向かっていることは認識しておく必要があるでしょう。