1. 配偶者居住権創設の経緯
社会の高齢化が進み平均寿命が延びたことから、夫婦の一方が死亡した場合、残された配偶者が長期間に亘り生活を続けなければならないケースが増えています。
例えば、夫名義の不動産に居住していた夫婦について、夫が先に死亡した場合、妻としてはその不動産に居住し続けることを希望することも多いと思われます。
しかし、他に相続人がいた場合、夫名義の不動産については共有となり、妻は共有物の分割によりその不動産に居住できなくなったり、他の相続人に代償金を支払わなければならなくなったりと、大きな負担を負うことになります。
そこで、、遺言や遺産分割の選択肢として、配偶者が、無償で、住み慣れた住居に居住する権利(配偶者居住権)を取得することができるように、民法が改正されました(民法1028条~)。
別に相続開始後一定の期間の居住権を認める配偶者短期居住権についても新たに定められています(民法1037条~)。
令和2年4月1日から施行されています。
2. 配偶者居住権の内容
(1)権利を主張できる者
相続財産である建物に相続開始の時に居住していた配偶者
(2)権利を主張できる期間
原則として終身(例外:遺産の分割の協議もしくは遺言に別段の定めがあるとき、または家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたとき)
(3)権利を主張できる場合
①配偶者が配偶者居住権を取得する旨の遺産分割ができたとき
②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
すなわち、夫婦間で、いずれかの死後も配偶者を自宅建物に居住させたい場合は、遺言で配偶者に配偶者居住権を遺贈する、という方法をとることができます。
※婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する
優遇措置について
通常、被相続人が持戻し免除の意思表示をしていない限り、被相続人が配偶者に財産を生前贈与又は遺贈をした場合は、遺産分割において、配偶者は既に相続財産の一部の先渡しを受けたものとみなされます。
しかしながら、婚姻期間が20年以上の夫婦の間でされた居住用の不動産の生前贈与又は遺贈については、被相続人は、残された配偶者の老後の生活保障を厚くするつもりで行われたものと推定されますので、被相続人が異なる意思表示をしていない限り、相続財産の先渡しとして取り扱われません(当該財産は、相続財産には含めない。)。
遺産分割において配偶者居住権を認める場合、配偶者居住権の財産的価値を評価する必要があります。
配偶者居住権の財産的価値の評価については、様々な評価方式があります。
公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会では、評価方式を明らかにした研究報告書を公表しています(「配偶者居住権の鑑定評価に関する研究報告」鑑定士協会HP)。
また、法務省ではより簡便な評価方式の一例を紹介しています(評価方式の一例)この他、相続税における配偶者居住権の価額の評価方法を参照することも考えられます(No.4666 配偶者居住権等の評価|国税庁 (nta.go.jp))。
3. 配偶者居住権の効果
(1)建物所有者は、配偶者居住権の設定登記義務を負い、当該設定登記は第三者対抗力を有し、建物所有権が移転しても新所有者に対して権利を主張できます。
(2)配偶者居住権者は、無償で居住建物に住み続けることができますが、これまでと異なる用法で建物を使用できない他、建物を借りて住んでいる場合と同じ注意を払う必要があります(善管注意義務を負います)。
(3)配偶者居住権は譲渡できません。
(4)建物の所有者の承諾がなければ居住建物の増改築はできません。
(5)(1)、(3)に反した場合、所有者が相当の期間を定めて是正の催告をしたにも関わらずその期間に是正がなされない場合は所有者は意思表示により配偶者居住権を消滅させることができます。
(6)居住建物の修繕は、配偶者がその費用負担で行うこととされています。
建物の所有者は、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときに自ら修繕をすることができます。
4. 配偶者短期居住権
配偶者居住権が認められるか否かにかかわらず、相続開始からしばらく(最低6ヶ月)の間、遺産である建物に居住できる権利が配偶者短期居住権として認められるようになりました。
(1)権利を主張できる者
相続財産である建物に相続開始の時に無償で居住しいていた配偶者
(2)権利を主張できる場合と期間
①配偶者を含む相続人間で当該建物の遺産分割をすべき場合
→遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日
②それ以外の場合(当該不動産が第三者によって取得された場合)
→当該第三者により配偶者短期居住権の消滅の申し入れがあった日から6ヶ月経過した日
なお、配偶者が配偶者居住権を取得したときは配偶者短期居住権は消滅します。
(3)配偶者短期居住権の効果
①配偶者短期居住権者は、定められた期間の範囲内で建物に住み続けることができますが、これまでと異なる用法で建物を使用することはできないほか、建物の使用に当たっては、建物を借りて住んでいる場合と同様の注意を払う必要があります。
②配偶者居住権と同様、居住建物の修繕が必要な場合には、配偶者がその費用負担で修繕を行うこととされています。
建物の所有者は、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときに自ら修繕をすることができます。
③配偶者居住権と同様、配偶短期居住権者は、建物所有者に無断で建物の増改築をすることはできません。
④配偶者居住権と異なり、配偶者短期居住権は、登記することはできません。
万が一、建物が第三者に譲渡されてしまった場合には、その第三者に対して、配偶者短期居住権を主張することができません。
この場合、配偶者は、建物を譲渡した者に対して、責任追及をしていくことが考えられます。