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不当訴訟~訴訟提起が不法行為になる場合(民事)

2025-04-24

1 不当訴訟とは、一般的には民事訴訟において、根拠無く訴訟を提起したり、相手方に対する嫌がらせや威嚇を目的として訴訟を提起すること(後者はスラップ訴訟と言われます)を指します。訴訟の提起が不法行為となり、損害賠償や慰謝料の支払いが命じられることがあります。

どのような場合に訴訟提起が不法行為になるのかについてのリーディングケースは最判昭和63年1月26日(判例時報1281号91頁)です。

同判決は次のように述べます。

「・・・・裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、(訴訟提起について)不法行為の成否を判断するにあたっては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。

 したがって、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによって、直ちに当該訴えの提起をもって違法ということはできないというべきである。」

と原告側の裁判を受ける権利の保護の必要性について述べる一方、

 「一方、訴えを提起された者にとっては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。」

 と被告側への保護の必要性について述べ、訴訟提起が不法行為として違法になる要件について、次のように述べました。

 「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、

  1. 当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、
  2. 提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限る

この要件を充足することはかなりハードルが高いと思われますが、その理由については次のように述べます。

「訴えを提起する際に、提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである。」

2 最高裁平成22年7月9日判決(判例時報2091号47頁)

  本件は、経理事務を担当していた従業員に横領があったとして会社、会社の代表者などが不法行為に基づく損害賠償請求をした(本訴)のに対し、従業員が本訴の提起が不法行為に当たるとして損害賠償請求をする反訴を提起した事件です。

  本判決は、前述の最判昭和63年1月26日の判断を踏まえた上、本件では横領行為に係る事実のほとんどについて会社側の人物が自ら指示したり、それによる金員を受領していることからすれば、同人物において記憶違いをしていたなどの事情がない限り、本訴で主張した会社側の権利が事実的根拠を欠くものを知っていたか、通常人であれば容易に知りえる状態にあった蓋然性が高く、本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当を欠くと認められる可能性があるというべきであるとし、記憶違いなどの事情について何ら認定せず本訴提起による不法行為の成立を否定するとした原審判決には法令違反があるとして従業員敗訴部分を破棄して原審に差し戻しました。

  最判昭和63年1月26日の「当該訴訟において提訴者の主張した権利又  は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものである」という要件に着目した判決だといえます。

3 ちなみに、上記最高裁の基準は、代理人として訴訟提起した弁護士についても妥当すると考えられます(東京地判令和元年10月1日判例時報2448号93頁)。