1. 署名代理権の効力
本来署名は自筆でなされるものです。
しかし手が不自由とか遠方にいるなどの理由で、自ら契約書に署名ができない場合、第三者が署名をすることがあり、署名代理などと言われます。
しかし、このような代筆権限が認められるのは、本人が代筆権限を授与した場合だけです。
問題のケースのように自己の意思を発することができないような場合は、自己の意思によって代筆権限を与えることができませんので、お子様が署名を代筆をしたとしても有効な署名とは認められず、契約は無効となります。
2. 意志無能力者の行為の効力
従前、幼児や心神喪失者などの意思無能力者がした行為は無効と考えられていました が、令和2年4月1日に施行された改正民法3条の2では「法律行為の当事者が意思表示をしたときに意思能力を有しなかったときは、その行為は無効とする」と明確に定められました。
したがって、問題のケースでは意思能力者自身が所有する不動産を売却する契約は事実上できないことになります。
どうしても不動産を売却したいという場合は、成年後見制度の利用を考える必要があります。
成年後見制度とは、知的障害・精神障害・認知症などによって判断能力がない、または不十分な人が、色々な契約や手続きをする際に成年後見人等を選任し、この者を中心に生活の支援をする制度です。
障害の程度が一番重い場合、家庭裁判所により成年後見人が選任され、成年後見人が本人の法定代理人として契約を締結することできます。
3. 無効な代筆により契約が成立したが、その後本人が意識不明状態から回復した場合
本人が意識不明状態から回復した場合、勝手に不動産を売却されたと思うのであれば、当然売買契約は無効である旨を主張することができます。
原則として追認はできませんが、売買契約が無効であることを認識したうえで、追認をすれば、新たな売買契約訴したものとみなされ、結果として売買契約を有効にすることもできます(民法119条 「無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。」)。
なお、本人が亡くなって、無断で署名した子が単独で相続人となった場合は、追認を拒絶することは信義則に反し許されず、相続とともに当然に有効となると考えられます