目次
1.法改正の背景について~所有者不明土地の増加
令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されます。
その他、いわゆる所有者不明土地解消のための大幅な法改正が行われています。
所有者不明土地とは、相続等の際に土地の所有者についての登記が行われないなどの理由により、不動産登記簿を確認しても所有者が分からない土地、又は所有者は分かっていてもその所在が不明で所有者に連絡がつかない土地のことです。
このような土地が日本各地で増加しており、その面積を合わせると、九州の面積よりも広いと言われています(吉原祥子(東京財団研究員)著『人口減少時代の土地問題-「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』(債務不存在)中央公論新社2017年)。
例えば、相続にあたって不動産について登記をしないまま放置していますと、相続人が死亡し新たな相続が発生したときにその不動産が遺産として認識されず、また登記が放置されるということになります。
このようなことが繰り返されますと、その土地の相続人の数が多数になり、誰が管理するのかが不明確になり、周辺の環境や治安の悪化を招きかねません。
また、土砂崩れなどの危険があっても所有者が不明のままでは工事が実施できませんし、公共事業のための土地買取交渉なども進まないなどの問題が生じます。
こういった所有者不明土地の問題を解消するため、令和3年(2021年)4月に「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立・公布されました。
また、相続登記申請の義務化については不動産登記法の改正によりなされています。
2.相続登記申請の義務化等
(1)相続登記申請の義務化(令和6年(2024年)4月1日施行)
ア 相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません(改正不動産登記法76条の2)。
イ 遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません(改正不動産登記法76条の2)。
アとイのいずれについても、正当な理由(※)なく義務に違反した場合は10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります(改正不動産登記法164条1項)。
なお、令和6年4月1日より以前に相続が開始している場合も、3年の猶予期間がありますが、義務化の対象となります(付則5条6項)。
(※)相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケースなどがこれにあたります。
(2)「相続人申告登記」制度の創設(令和6年(2024年)4月1日施行)
不動産を所有している方が亡くなった場合、その相続人の間で遺産分割の話し合いがまとまるまでは、法律上、全ての相続人がその不動産を共有している状態になります。
その状態で相続登記を申請しようとすると、全ての相続人を把握するための資料(戸籍謄本など)が必要になってしまいます。
そこで、遺産分割がまとまらず、相続登記を申請することができない場合は、自分が相続人であることを法務局の登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務を果たすことができる「相続人申告登記」の制度が創設されました(改正不動産登記法76条の3第1項、第3項)。
この制度を利用すれば、自分が相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出するだけで申出することができ、より簡易に手続を行うことができます。
(3)住所等の変更登記の申請の義務化(令和8年(2026年)4月1日施行)
不動産所有者が転居したにもかかわらず登記簿上の所有者の住所変更を放置したため、所有者と連絡が取れないといった事態を防ぐため、住所等の変更登記の申請が義務化され、登記簿上の不動産の所有者は、所有者の氏名や住所を変更した日から2年以内に住所等の変更登記の申請を行わなければならなくなりました(改正不動産登記法76条の5)。
なお、正当な理由がないのに申請をしなかった場合には、5万円以下の過料の適用対象となります(改正不動産登記法164条2項)。
(4)その他の新たな制度
上記の制度のほか、(1)親の不動産がどこにあるか調べられる「所有不動産記録証明制度」(改正不動産登記法119条の2 令和8年(2026年)2月2日施行)、(2)他の公的機関との情報連携により所有権の登記名義人の住所等が変わったら不動産登記にも反映されるようになる仕組み(改正不動産登記法76条の6 令和8年(2026年)4月1日施行)、(3)DV被害者等を保護するため登記事項証明書等に現住所に代わる事項を記載する特例(改正不動産登記法119条6項 令和6年(2024年)4月1日施行)などが新たに設けられました。
3.土地を手放すための制度「相続土地国庫帰属制度」
(1)「相続土地国庫帰属制度」の創設
土地を相続したものの使い道がなく、手放したいけれど引き取り手もなく、処分に困っている、といった土地が所有者不明土地の予備軍になっていると言われています。
そこで、所有者不明土地の発生を予防するため、土地を相続した方が、不要な土地を手放して、国に引き渡すことができる「相続土地国庫帰属制度」が新たに設けられました(「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(国庫帰属法)」令和5年(2023年)4月27日施行)。
(2)申請者
基本的には、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人であれば、どなたでも申請できます(売買等によって土地を取得した方や法人については対象外です国庫帰属法1条、2条1項)。
土地が共有地である場合には、共有者全員で申請していただく必要があります(国庫帰属法2条2項)。
そして、国に引き渡すためには、法務大臣(窓口は法務局)の承認を得た上で、負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付する必要があります(国庫帰属法10条1項)。
(3)費用
申請する際には、1筆当たり1万4,000円の審査手数料を納付する必要があります。
さらに、法務局による審査を経て承認されると、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付します。
同じ種目の土地が隣接していれば、負担金の合算の申出をすることができ、2筆以上でも負担金は原則20万円です。
なお、一部の市街地の宅地、農用地区域の農用地、森林などについては、面積に応じて負担金を算定するものもあります。
(4)土地の条件
どのような土地でも国庫帰属できるわけではなく、次のような条件を満たすことが必要です(形式的要件国庫帰属法2条3項)。
- 建物がないこと
- 担保権などの権利が設定されていないこと
- 通路など他人による使用が予定される土地ではないこと
- 土壌汚染がないこと
- 境界が明らかとなっていること(実質的要件国庫帰属法5条1項)
- 危険な崖などがないこと
- 工作物がないこと
- 地中有体物がないこと
- 隣地所有者との争訟の必要がないこと
(5)国庫に帰属した土地の管理
国庫に帰属した土地は、原則として財務大臣が管理処分します(国有財産法3条3項、6条、8条)。
ただし、農用地及び森林として利用されている土地については農林水産大臣が管理処分します(国庫帰属法12条)。
4.すでに発生している所有者不明土地の円滑利用のための民法のルールの見直し
(1)土地・建物に特化した財産管理制度の創設(令和5年(2023年)4月1日施行)
所有者不明土地・建物や管理不全状態にある土地・建物は、公共事業や民間取引を阻害したり、近隣に悪影響を発生させたりするなどの問題が起きるきっかけになります。
そこで、所有者が不明だったり、所有者が適切に管理していなかったりする土地や建物の管理に特化した財産管理制度が新たに設けられました。
この点、従来から所在がわからない人の財産を管理する仕組みとして、「不在者財産管理人」制度が存在していましたが、これはあくまでも「人単位」の制度であり、土地や建物など財産面から見た制度ではなくまた、そもそも所有者をまったく特定できない土地や建物については、不在者財産管理人制度の利用は困難でした。
新たに「土地・建物に特化した財産管理制度」が創設されたことで、今後は土地・建物単位での管理人選任が可能になる点が大きなメリットとなります。
ア「所有者不明土地・建物の管理命令制度」
これは、所有者がわからない土地・建物や、所有者は分かっても所有者の所在を知ることができない土地・建物について、その土地・建物の管理人を選任してもらう制度です(改正民法264の2~8)。
所有者不明土地・建物の管理人は、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、裁判所が選任します。
管理人には事案に応じて、弁護士や司法書士などのふさわしい者が選任される予定です。
この制度を活用するためには、次の2つの要件を満たさなければなりません。
①調査を尽くしても所有者又はその所在を知ることができないこと
②管理状況等に照らし管理人による管理の必要性があること
また、管理者選任の申立てをすることができるのは、所有者不明土地・建物の管理について利害関係を有する利害関係人に限定されています。
例えば、公共事業の実施者など不動産の利用や取得を希望する者のほか、共有地における不明共有者以外の共有者がこれに該当します。
管理人は土地・建物の保存や利用、改良行為などを行うことができる他、裁判所の許可を得て、売却や建物の取壊しなどをすることも可能です。
売却などで得た金銭は管理人のものとなるわけではなく、供託をしてその旨を公告することとされています。
イ「管理不全状態にある土地・建物の管理命令制度」
これは、所有者による管理が不適当であることによって他人の権利や法的利益が侵害されていたり、侵害されるおそれがあったりする土地・建物について、その土地・建物の管理人を選任してもらう制度です(改正民法264条の9~14)。
管理不全土地・建物の管理人は、利害関係人が地方裁判所に申し立て、裁判所が選任します。
管理人には事案に応じて、弁護士や司法書士などのふさわしい者が選任される予定です。
この制度を活用するための要件は、次の3点です。
1 所有者による土地・建物の管理が不適当であること
2 他人の権利・法的利益が侵害され、又はそのおそれがあること
3 土地・建物の管理状況等に照らし、管理人による管理の必要性が認められること
「所有者不明土地・建物の管理制度」とは異なり、所有者が不明であることは要件とされていません。
管理不全状態にある土地・建物には、例えば次のものが該当します。
- ひび割れ・破損が生じている擁壁を土地所有者が放置しており、隣地に倒壊するおそれがあるケース
- ゴミが不法投棄された土地を所有者が放置しており、臭気や害虫発生による健康被害を生じているケース
管理者選任の申立てをすることができるのは、倒壊のおそれが生じている隣地所有者や、被害を受けている者などの利害関係人です。
管理人は、その土地・建物の保存や利用や改良行為のほか、裁判所の許可を得ることにより、これを超える行為をすることも可能であるとされています。
しかし、こちらは所有者自体が不明ということではありませんので、売却や建物の取壊しなどをするためには、所有者の同意を得なければなりません。
(2)共有者不明の場合への対処(令和5年(2023年)4月1日施行)
共有状態にある不動産について、これまで所在が分からない共有者がいる場合は、その不動産の利用について共有者間の意思決定ができないといった問題が指摘されていました。
そこで、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくできるように共有制度全般について様々な見直しがされました。
ア 共有物を利用しやすくするための見直し
共有物に軽微な変更を加えるために必要な要件が緩和され、全員の同意は不要となり、持分の過半数で決定することが可能となりました(債務不存在)改正民法252条)。
所在等が不明な共有者がいるときは、他の共有者は地方裁判所に申し立て、その決定を得て、残りの共有者による管理行為や変更行為が可能となりました(改正民法252条の2)。
イ 共有関係の解消をしやすくするための仕組み
所在等が不明な共有者がいる場合は、他の共有者は地方裁判所に申し立て、その決定を得て、所在等が不明な共有者の持分を取得したり(改正民法262条の2)、その持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡したりすること(改正民法262条の3)が可能となりました。
(3)遺産分割長期未了状態への対処(令和5年(2023年)4月1日施行)
相続が発生してから遺産分割されないままで長期間放置されると、その状態で相続が繰り返され、更に多くの相続人が土地を共有することになり、遺産の管理・処分が難しくなります。
また、遺産分割のルールは、法定相続分を基礎としつつ、生前贈与を受けたことや、療養看護など特別の寄与をしたことなどの個別の事情を考慮して具体的な相続分を算定するのが一般的です。
ところが、遺産分割がされずに長期間経過した場合、具体的相続分に関する証拠がなくなってしまい、遺産分割が更に難しくなるといった問題があります。
そこで、遺産分割がされずに長期間放置されるケースの解消を促進する新たなルールが設けられ、被相続人の死亡から10年を経過した後の遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分(又は指定相続分(遺言による相続))によって画一的に行うこととされました(改正民法904条の3)。
(4)相隣関係の見直し(令和5年(2023年)4月1日施行)
隣地の所有者やその所在が分からない場合は、隣地の所有者から隣地の利用や伸びてきた枝の切取りなどに必要となる同意を得ることができず、土地を円滑に利活用することができません。
そこで、隣地を円滑・適正に使用できるよう、越境した竹木の枝の切取りのルールの見直しがなされた他(改正民法が233条)、ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備(改正民法213条の2)がなされました。
(参考文献等)
大阪弁護士協同組合編「Q&A所有者不明土地関連法」
政府広報「なくそう、所有者不明土地! 所有者不明土地の解消に向けて、 不動産に関するルールが大きく変わります!」