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限定承認~先買権とその注意点~(相続)

2024-03-25

1. 相続について相続人が取りうる手続

相続が発生した場合に、その相続人の取りえる手続きは、主に次の3つがあります。

① 承認をする(プラスの財産もマイナスの財産(負債)も引き継ぐ) 

② 相続放棄する(最初から相続人にならずプラスの財産も負債も引き継がない)

③ 限定承認する (プラスの財産の範囲で負債を支払う)

現預金や不動産等プラスの財産があり、負債がなかったり少額だったりした場合は、ほとんどの人は①のとおり承認して遺産や負債を相続するでしょう。

逆に財産より負債の方が大きい場合は②の相続放棄を選択することが多いと思われますが、③の限定承認が選択されることがあります。

2.限定承認手続きとは

限定承認」とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産(負債)も引き継ぐことをいいます。(民法922条)。 
 

民法922条

(限定承認)
 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべき事を留保して、相続の承認をすることができる。

3.限定承認の方式など

限定承認は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に相続財産目録を作成して被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述(書面を提出)する必要があります(民法924条)。

複数の相続人がいる場合は共同相続人全員が共同して行わなければなりません(民法923条)。

共同相続人の中に相続放棄をした者がいるときは、その者は最初から相続人にならなかったことになりますので(民法939条)、その他の共同相続人全員で限定承認をすることができます。

また、複数の相続人がいる場合は家庭裁判所は、相続人の中から相続財産清算人を選任し、相続財産清算人は相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為を行います(民法936条第1項、第2項)。

4.限定承認を利用することが有効な場合 「先買権」の利用

(1)限定承認においては、相続人は財産の換価及び負債の弁済という破産手続の破産管財人のような手続を行わなければならないため、専門家でない相続人には負担が多いといわれています。

しかし、次のようなケースにおいては限定承認を利用することが有効です。

ア 遺産に含まれる財産にプラスの財産が多いかマイナスの財産が多いか分からない場合

イ どうしても相続したい遺産がある場合

(2)イについてですが、例えば自宅が遺産になっている場合、負債の方が大きくてもこれをどうしても相続したいという相続人もいると思います。

そのような場合は限定承認手続を選択した上で「先買権」という、優先的に購入することができる権利を使用すれば、必要な財産のみ取得することができます。

すなわち、債権者への弁済のために相続財産の売却が必要な場合には、原則として裁判所を通しての競売手続きによって売却しなければならないのですが(民法932条本文)遺産の中に自宅や自動車など、相続人がどうしても取得したい遺産がある場合には、先買権を行使する方法でその相続人自身が遺産価値を支払い、これを取得することができるとされています(民法932条但書)。

なお、競売や鑑定の手続には相続債権者や受遺者も参加できることになっています(民法933条)。

5.先買権行使の際の注意点

先買権を行使するには、遺産価値の評価が必要であり(民法932条但書)、限定承認後に、家庭裁判所へそれぞれ先買権の対象物ごとに鑑定人選任の申立てを行う必要があります。

不動産であれば不動産鑑定士、自社株式であれば税理士等を鑑定人候補者として立てて、家庭裁判所へ申立てをすることになります。 

ここで注意しないといけないのは、鑑定人の費用は相続財産からではなく、先買権を行使した人が負担しなければならないということです。

不動産の鑑定などは、数十万円から100万円単位になることがありますので(筆者の経験したケースでは、鑑定評価約1500万円の土地建物について鑑定費用が200万円を超えたことがあります)、この費用負担も考慮に入れた上で、先買権を行使することを検討する必要があります。

もちろん、取得したい物件の鑑定評価額も用意しなければなりません。

6.限定承認をした共同相続人に、法定単純承認事由があった場合

相続人が遺産の全部又や一部を処分したときなど一定の事由が生じた場合、相続人は単純承認をしたとみなされ(法定単純承認 民法921条)、相続放棄はできなくなります。

限定承認を選択したものの、相続人の中に法定単純承認に該当する行為を行った者がおり、そのために相続財産からの弁済を受けられなくなった債権者は、その相続人に対して相続分に応じた権利を行使できるとされています(民法937条)。

不誠実な相続人から債権者を保護する規定です。他の、法定単純承認に該当する行為を行っていない共同相続人に対しての請求はできません。