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自筆証書遺言作成の注意点(相続)

2024-04-04

1. 遺言の必要性と種類

自分が死亡した後、遺産を法定相続人以外の人(法人でも)に渡したい場合や、法定相続分と異なる相続をさせたいというような場合には、生前に遺言書を作成しておく必要があります。

一般的には、遺言者自らが手書きで書く「自筆証書遺言」と、公証人が遺言者から聞いた内容を文章にまとめ公正証書として作成する「公正証書遺言」が多く使われています。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が、遺言の全文、日付、氏名を自分で手書きして、押印をする遺言書です。

遺言書の本文はパソコンや代筆で作成できませんが、民法改正によって、財産目録をパソコンや代筆でも作成できるようになりました(平成31年(2019年)1月13日以降)。

自筆証書遺言の長所・短所は、次のとおりです。

(1)長所

  • いつでも好きな時に作成、書き直しができる。
  • 作成に費用がからない。
  • 遺言の内容を秘密にすることができる。

(2)短所

  • 書き方を間違えると遺言が無効になるおそれがある。
  • 遺言書が紛失したり、見つけられなかったりするおそれがある。
  • 遺言書が捨てられたり、隠されたりするおそれがある。
  • 検認の手続が必要になる。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公正役場で、遺言者が遺言の趣旨を公証人に述べて、公証人の筆記により作成してもらう遺言書です。

公正証書遺言の長所・短所は、次のとおりです。

(1)長所

  • 公証人という法律の専門家(裁判官、検察官ОB)が遺言書を作成してくれるので-遺言書が無効になる可能性が低い。
  • 原本が公証役場に保管されるので紛失のおそれが少ない。
  • 勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがない。
  • 家庭裁判所での検認の手続が不要。

(2)短所

  • 証人2人が必要。
  • 費用や手間がかかる。

2. 自筆証書遺言を作成する場合の注意点

自筆証書遺言書の最も注意すべき点は、民法に定められた最低限守るべき要件を満たしていないと無効になってしまうということです。

(1)民法で定められた自筆証書遺言書の要件(民法968条1項)

  1. 遺言者本人が、遺言書の本文の全てを自書する。
  2. 日付は、遺言書を作成した年月日を具体的に記載する。
  3. 遺言者が署名する。
    (自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、住民票の記載どおりに署名-する)
  4. 押印をする(認印でもよい)。

(2)財産目録について

民法改正により財産目録は、パソコンで作成した目録や預金通帳や登記事

項証明書等のコピーなどを添付する方法でも作成可能になりました。

しかし、その場合は各ページに自書による署名と押印が必要です(両面コピーなどの場合は両面に署名・押印が必要です。)。

自書によらない財産目録は、本文が記載された用紙とは別の用紙で作成しなければなりません。

本文が記載されたページの途中からパソコンで作成した目録を貼り付けるなどしてはいけません。

(3)書き間違った場合の変更・追加

遺言書を変更する場合には、従前の記載に二重線を引き、訂正のための押印が必要です。

また、適宜の場所に変更場所の指示、変更した旨、署名が必要です。

3. 自筆証書遺言保管制度について

自筆証書遺言書の無効になってしまうおそれ、改ざん・偽造されたり、紛失したりするおそれといった問題を解消するため、自筆証書遺言書とその画像データを法務局で保管する「自筆証書遺言書保管制度」が、令和2(2020)年7月10日からスタートしています。

この制度は、全国312か所の法務局(※)で利用することができます。

※ 保管制度を利用できる法務局は次のいずれかの地を管轄する法務局です。

  1. 遺言者の住所地
  2. 遺言者の本籍地
  3. 遺言者が所有する不動産所在地

自筆証書遺言書保管制度の長所

(1)適切な保管によって紛失や盗難、偽造や改ざんを防げる

法務局で、遺言書の原本と、その画像データが長期間適正に保存されます(原本は遺言者死亡後50年間、画像データは遺言者死亡後150年間)。

そのため、紛失や盗難のおそれがありません。

また、法務局(遺言書保管所)で保管するため、偽造や改ざんのおそれもありません。

(2)無効な遺言書になりにくい

遺言書の保管申請時には、民法が定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて法務局職員(遺言保管官)が確認するため、外形的なチェックが受けられます。

ただし、遺言書の内容についての相談はできないこと、遺言書の有効性を保証するものではないことには注意が必要です。

(3)相続人に発見してもらいやすくなる(指定者通知制度)

遺言者があらかじめ希望した場合、その通知対象とされた方(遺言者1名につき、3名まで指定可)に対しては、亡くなったときに、遺言書が法務局に保管されていることを通知してもらえます。

この通知は、遺言書保管官(法務局職員)が、遺言者の死亡の事実を確認したときに実施されます。

これにより、遺言書が発見されないことを防ぐことができます。

この他、相続人等のうちのどなたか一人が遺言書保管所で遺言書の閲覧をしたり、遺言書情報証明書の交付を受けた場合、その他の相続人全員に対して、遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届く、関係遺言書保管通知という制度があります。

(4)検認手続が不要になる

筆証書遺言書保管制度を利用すれば、検認が不要となり、相続人等が速やかに遺言書の内容を実行できます。

要求される様式

用紙はA4サイズ、裏面には何も記載しない。

上側5ミリメートル、下側10ミリメートル、左側20ミリメートル、右側5ミリメートルの余白を確保する。

遺言書本文、財産目録には、各ページに通し番号でページ番号を記載する。

複数ページでも綴じ合わせない。

事前予約が必要

この手続きは事前予約制で、予約ウエブサイト、電話、窓口であらかじめ予約する必要があります。

下記サイトから法務局を選択して行います。

【法務局手続案内予約サービス】ポータル:ポータル (moj.go.jp)

5. 裁判例

自筆証書遺言では日付を記載しなければなりませんが、遺言成立日と異なる日付を記載した場合、遺言の効力はどうなるでしょうか。

この問題について、最高裁が、自筆遺言証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって、同証書による遺言が無効となるものではないと判断した事例があります。

(最高裁第一小法廷令和3年1月18日判決-判例タイムズ1486号11頁)

事案の概要

  1. 亡Aは平成27年4月13日、入院先の病院で、同日付けの自筆証書遺言の全文、同日の日付、及び氏名を自書した(押印はしていない)。
  2. 亡Aは退院して9日後の同年5月10日に、弁護士立会いの下押印した。
  3. 亡Aの妻らであるXらは、本件遺言書に本件遺言が成立した日(押印がなされた5月10日)と相違する日の日付(4月13日の日付を書き入れた同日)が記載されているなどと主張して、本件遺言が無効であることの確認等を求める訴訟を提起した(反訴請求もある)。

原審判決

「自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず、本件遺言書には押印がされた平成27年5月10日の日付を記載すべきであった。

自筆証書である遺言書に記載された日付が真実遺言が成立したの日の日付と相違しても、その記載された日付が誤記であること及び真実遺言が成立した日が上記遺言の記載その他から容易に判明する場合には、上記の日付の誤りは遺言を無効とするものではないと解されるが、Aが本件遺言書に「平成27年5月10日」と記載する積もりで誤って「平成27年4月13日」と記載したとは認められず、また、真実遺言が成立した日が本件遺言書の記載その他から容易に判明するともいえない。

よって、本件遺言は、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから無効である。

最高裁判決

最高裁は次の理由により原審判決を破棄しました(裁判官全員一致)。

「自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと解されるところ(最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日第三小法廷判決・裁判集民事120号531頁参照)、前記事実関係の下においては、本件遺言が成立した日は、押印がされて本件遺言が完成した平成27年5月10日というべきであり、本件遺言書には、同日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず、これと相違する日付が記載されていることになる。

しかしながら、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。

したがって、Aが、入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書し、退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。」

「以上によれば、本件遺言を無効とした原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

この点に関する論旨は理由があり、原判決中本訴請求に関する部分は破棄を免れず、本件遺言のその余の無効事由について更に審理を尽くさせるために、これを原審に差し戻すのが相当である。」

解説

自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと解されています(上記最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日)。

また、遺言は民法に定める方式に従わなければすることができないとされており(民法960条)方式違反は無効になるため、遺言書に遺言成立日と異なる日の日付が記載されている場合の遺言の効力が問題となります。

様式性を重視すれば無効ということになりますが、書き誤りの場合について最高裁は「その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、右日付けの誤りは遺言を無効ならしめるものではない。」としています(最二小判昭和52年11月21日裁判集民事122号239頁)。

しかし本件は書き誤りではありませんので、この最高裁判決とは事例を異にします。

このような場合について、本件の原審では様式性を重視して書き誤りではない場合は遺言は無効と判断したのですが、最判は、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあるとして、直ちに無効とはしませんでした。

遺言者の真意が明らかだといえれば、遺言者の真意の実現を確保することを優先しても良いと思われますし、書き誤りの場合でも有効になるケースがあることとの均衡を考えても、本件最判の判断したように遺言が有効となる余地が認められるべきではないかと思われます。