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強制執行の強い味方になるか~財産開示手続(一般民事)

2024-05-28

先日、裁判所に「財産開示手続」で呼び出されたにもかかわらず正当な理由なく出頭しなかったとして男が逮捕されたというニュースがありました。

成人式”ド派手”衣装の代金未払い 地裁の「財産開示」手続き呼び出しで出頭しなかった疑い 27歳男を逮捕

この「財産開示手続」は、債権者の権利実現の実効性を確保する見地から、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり、債務者を裁判所に呼び出して財産状況を陳述させる手続です。

訴訟を提起し勝訴判決を得たにもかかわらず債務者(被告)が任意に支払いをしてこない場合は、債務者の財産を「強制執行」しなければなりません。

しかし、債務者の財産が把握できずに強制執行ができない、または強制執行が奏功しないというケースは多くあります。

このような場合に「財産開示手続」を行うことにより、債務者の財産内容を知ることができます。

財産開示手続は以前からある手続ですが、2020年の民事執行法の改正により、より使いやすい制度になっています。

筆者もこの財産開示手続きにより、債務者の勤務先の情報を得ることができ債権回収が成功した経験があります。

以下、財産開示手続きの必要書類、要件、罰則などについて説明します。

1. 申立てに必要な書類

財産開示手続きは裁判書に書面で申し立てることになりますが、次のような書類が必要になります。

①執行力のある債務名義の正本

  • 判決(確定判決、仮執行宣言付判決)
  • 仮執行宣言付支払督促
  • 公正証書
  • 和解調書
  • 少額訴訟判決
  • 調停調書
  • 家事審判

なお、法改正前は、公正証書、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促については、財産開示の対象となる債務名義には含まれていませんでした。

民事執行法改正によりこれらの文書も債務名義に含まれることになり、より利用しやすい制度になりました。

②債務名義の送達証明書・確定証明書

送達証明書とは、債務名義が債務者に送達されたことを証明する文書です。

また、確定証明書とは、判決が確定したことを証明する文書で、確定しなければ効力を生じない債務名義を利用する際に必要になります。

2. 財産開示手続が実施される要件

① 債務名義に基づいて財産開示手続を利用するためには、財産か維持の必要性があることが要件であり、具体的には以下のいずれかを満たす必要があります(民事執行法第197条第1項・第3項)。

  • 申立日の6か月以内に実施された強制執行または担保権実行における配当・弁済金交付手続きで、申立人が完全な弁済を受けられなかったとき(第1項1号)

すなわち、この要件を満たすためには一度強制執行ないし担保権実行の手続きをとって空振りに終わっただけではなく、配当・弁済金交付手続きまで行われた必要があります。

これは、債務者の預金口座が無いことを知っていながら差押えの手続を行う場合など、無意味な執行をすることで必要性の要件を満たすことを防止するためです。

  • 申立人が通常行う調査を行い、判明した財産に対して強制執行をしても完全な弁済を得られないことの疎明があったとき(第1項2号)

この要件を疎明するためには、所定の「財産調査結果報告書」という書類を提出する必要があります。

債務者の不動産・動産・債権等について調査をすることが必要となります。

財産調査結果報告書の書式他必要書類については裁判所のHPを参考にしてください。

財産開示手続 | 裁判所 (courts.go.jp)

② 申立の日前3年以内に財産開示期日においてその財産について陳述していないこと(第3項)。

3. 財産開示期日

①財産開示手続きの実施決定が確定したら、約1か月後をめどに財産開示期日が指定されます。

債務者には裁判所から期日呼出状と財産目録提出期限通知書が送られます。

②財産開示期日は、非公開の手続きで行われます。

債務者は、指定された期日に裁判所に出頭し、大まかには次のような手続で期日は進みます。

  • 裁判官が、債務者の住所・氏名等を確認します。
  • 裁判官が宣誓の趣旨を説明し、債務者が正当な理由無く陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をした場合には罰則があることを告げます。
  • 債務者が虚偽を述べない旨の宣誓をします。
  • 裁判官の許可を得て、事前に提出した質問事項に沿って債権者(又は債権者代理人弁護士)が質問をします。

債務者が財産開示期日に出頭しない、または出頭しても虚偽の陳述をした場合には、刑事罰が科される可能性があります(次項参照)。

③罰則

法改正前の財産開示手続では、財産開示期日に出頭しない、または出頭しても虚偽の陳述をした場合には30万円以下の過料が科されていました。

しかし、過料は行政罰であり刑事罰とは異なるため、罰の感銘力が低く、財産開示手続を無視する債務者が少なくありませんでした。

しかし、法改正により、財産開示手続を無視した場合の罰則が6か月以下の懲役または50万円以下の罰金になりました。

以前の制度に比べて厳罰化が図られたことから、債務者としても財産開示手続きを無視しづらくなりました。

冒頭のニュースの件は、財産開示期日に出頭しなかったことを理由に逮捕されたというものですが、より手続きの実効性を高めるためには、財産開示手続きを無視する悪質な債務者に対する刑事罰の適用が重要になってきます。

警察・検察が真剣に捜査・処分し、裁判所も相当な刑を科す(制度上は、懲役刑で実刑に処すこともできる)ことが必要ではないかと考えます。

※ 本稿の意見に渡る部分は記事筆者の個人的な見解であり、梅新法律事務所の公式見解ではないことを表明いたします。