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手付による解除の場合、仲介手数料の支払い義務はあるか(一般民事)

2024-05-28

1. 問題

売買契約成立のときに、買主が売主に対して手付を交付することがあります。

この場合、売主であれば買主に対し受け取った手付の倍額を提供し、買主であれば売主に渡した手付をそのまま放棄することによって、売買契約を解除(手付による解除)することができます。

では、売主または買主が手付による解除をした場合に、仲介業者に仲介手数料を支払わなければならないのでしょうか。

手付による解除により肝心の売買契約は白紙に戻り、物件の取得ないし売却代金の確保という目的は達成できなかったことになりますので、仲介手数料を支払うのは、売買契約の当事者からすれば納得がしにくいところです。

2. 考え方

この点、仲介手数料は、仲介によって売買契約が成立することによって発生するものですので、手付による解除という売買契約が成立した後の事情によって、仲介手数料が全く請求できなくなるわけではありません。

すでに仲介行為自体は行なわれて売買契約の成立という結果も出ていますので、原則として請求できるということになります。

この点、国交省の標準媒介約款においては、次の通り売買契約が成立したときに報酬を請求できるとは規定されていますが、手付金放棄解除の場合の規定はありません。

(報酬の請求)

1乙の媒介によって目的物件の売買又は交換の契約が成立したときは、乙は、 甲に対して、報酬を請求することができます。

ただし、売買又は交換の契約が停止 条件付契約として成立したときは、乙は、その条件が成就した場合にのみ報酬を請求することができます。

2 前項の報酬の額は、国土交通省告示に定める限度額の範囲内で、甲乙協議の上、 定めます。

また、個別の案件における仲介契約の定めの中で、仲介手数料がいつ、どのような場合に発生するかについて特別な内容が決められていれば、その内容に従うことになります(なお、手付による解除の場合も仲介手数料を全額請求できると規定されている場合については後述します)。

3. 仲介契約に、手付による解除の場合の仲介手数料に関する条項がない場合、仲介手数料を「全額」請求できるのか、について

この点、売主から委託を受けた不動産仲介業者の媒介により締結された不動産売買契約が、買主の手付の放棄によって解除された場合の仲介手数料について、福岡高裁那覇支部平成15年12月25日判決は概略以下のように判示しています。

①仲介業者が媒介契約に基づいて行うべき事務の中心的な内容は、仲介により売買契約を成立させることであり、いったん有効に成立した売買契約が手付金放棄により解除されたからといって、媒介契約に基づく報酬請求をすることができないと解することは相当でない。

②しかしながら、一般に、仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である(最高裁判所昭和49年11月14日判決)。

特に、手付金放棄による解除の場合には、仲介業者としては、そのような場合に備えて報酬の額についての特約を予め本件媒介契約に明記しておくことは容易であったと考えられる。

③他方、依頼者としては、本件媒介契約書に上記のような特約が明記されるか、契約締結に際して特に仲介業者から説明を受けたという事情でもない限り、履行に着手する以前に買主が手付金を放棄して売買契約を解除したような場合にも仲介報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常であると思われる。

④そうすると、本件媒介契約に基づいて請求できる報酬の額については当事者間の合意が存在しないこととなるけれども、報酬について特約がない場合でも、仲介業者は相当報酬額を請求できると解される(商法512条)。

そこで、本件において仲介業者が請求できる相当な報酬額について検討するに、一般に、特約のない場合に仲介業者の受け取るべき報酬額については、取引額、仲介の難易、期間、労力その他諸般の事情を斟酌して定めるべきであるが(最高裁判所昭和43年8月20日判決)、本件のように相手方が差し入れた手付を放棄して解除した場合においては、さらに、手付金放棄による解除がなかったとした場合に仲介業者が受領し得たはずの約定報酬額、解除によって依頼者が現実に取得した利益の額等をも総合的に考慮して定めるべき。

⑤本件では、手付金の額(2000万円)が売買代金額に対して比較的少額であること(手付金の額すなわち依頼者が取得した利益が多額である場合には約定報酬額全額を請求しうる場合もあると考えられる。)、本件売買契約を成立させるについて仲介業者が通常の場合以上に格別の労を取ったとか、逆に通常より著しく容易であったというような特別の事情、また、依頼者が本件売買契約締結及び履行のために格別の出捐をしたという事情は窺えず、これが解除されたことにより著しい損害を被ったというような事情も格別見当たらないこと、依頼者は手付金放棄による解除により、本件土地の所有権を喪失することなく2000万円を取得する結果となったことその他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件で仲介業者が依頼者に請求することのできる報酬額としては1000万円が相当。

要約しますと、売買契約が成立した場合は仲介手数料を請求できるのが原則だが、手付による解除の場合は契約の目的が達成できないのであり、仲介手数料の条項そのものを適用しづらく、仲介手数料について特約がない場合といえる、このように当事者の合意がない場合については商法512条により、仲介業者は相当な額の報酬が請求できるが、一切の事情を考慮して報酬額を決めるべきだ、ということです。

このケースでは1000万円(全額の60%程度) が認められていますが、一般には50%~80%の幅で協議されているといわれています。

なお、国土交通省からの通達では、仲介手数料の受領は、売買契約成立時に半金・引渡時に半金とすることが望ましいとされています。

4. 手付による解除の場合も全額仲介手数料を支払う義務がある旨の条項がある場合

手付による解除の場合も「全額」仲介手数料を支払う義務がある旨の条項が入っている場合があります。

上記福岡高裁那覇支部の判決によれば契約書の記載に従って、仲介手数料を全額支払う義務が発生するように思われます。

この点、私見ではありますが、不動産の購入という最終目的が達成できない場合まで仲介手数料を全額請求できるという条項自体、買主に相当不利益であり信義則上問題がありますし、国交省の通達にも反しているといった問題がありますので、全額払いの義務を認めることには疑問がないではありません。

契約当事者としてはこれらの問題を指摘して、減額交渉をされてみてはどうかと思います。